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鹿児島地方裁判所 平成10年(行ウ)12号 判決 1999年3月29日

鹿児島市東千石町二番三号

ウイークリーマンションA2四〇一

原告

高木林

鹿児島市易居町一番六号

被告

鹿児島税務署長 永田弘志

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

陣内孝雄

右両名指定代理人

細川二朗

此元英雄

下田隆夫

下池明

宮内健義

松崎米一

井寺洪太

今村久幸

田川博

鈴木吉夫

福浦大丈夫

主文

一  原告の被告鹿児島税務署長に対する訴えを却下する。

二  原告の被告国に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一事実

一  原告の請求

1  被告鹿児島税務署長の原告に対する昭和六三年一二月二二日付け通知処分を取り消す。

2  被告国は原告に対し納付済み所得税一二一九万円を返還せよ。

二  当事者間に争いのない事実及び証拠により認められる事実

1  原告所有地の競売

原告が所有していた鹿児島市谷山塩屋町字清見寺七五五番一所在の宅地七二七・三〇平方メートル(以下「本件土地」という。)は、昭和六二年六月五日、鹿児島地方裁判所の競売により、徳永忠久(以下「買受人」という。)に売却(売却代金六〇八〇万円)された(甲一の三五、四一ないし四八枚目)。

2  原告の確定申告から本件通知処分までの経緯

(一) 原告は、被告鹿児島税務署長(以下「被告税務署長」という。)に対し、昭和六三年三月一七日、昭和六二年分の所得税につき、総所得金額二三三万六三五四円、分離長期譲渡所得の金額五六七六万円、納付すべき所得税額一二三一万八一〇〇円との内容を記載した確定申告書を提出した(以下「本件申告」という。)(甲一の三二枚目)。

(二) 被告税務署長は、原告に対し、昭和六三年五月二〇日、無申告加算税の額六一万五五〇〇円の賦課決定処分をした(甲一の三二枚目)。

(三) 原告は、被告税務署長に対し、同年九月一四日、本件申告の分離長期譲渡所得に係る資産の譲渡はなかったとして、総所得金額二三三万六三五四円、分離長期譲渡所得の金額零円、納付すべき所得税額一二万八一〇〇円とする国税通則法二三条一項の規定に基づく更正の請求をした(甲一の三二枚目)。

(四) これに対し、被告税務署長は、同年一二月二二日付けで、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした(以下「本件通知処分」という。)(甲一の二三、三二枚目)。

3  本件通知処分に対する不服申立て

(一) 原告は、平成元年二月一〇日、被告税務署長に対し、本件通知処分につき異議申立てをしたところ、被告税務署長は、同年四月二六日付けで、棄却の異議決定をした(甲一の三二枚目、乙一の二枚目)。

(二) 原告は、同年五月一七日、国税不服審判所長に対し、本件通知処分につき審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、同年一〇月三〇日付けで、棄却の裁決をし(以下「本件裁決」という。)(甲一の三一枚目、乙一の二枚目)、右裁決書は同年一一月一六日に原告に送達された(甲一の二〇、二一枚目)。

4  その後の原告の訴訟

(一) 原告は、平成二年一〇月二六日、鹿児島地方裁判所に対し、熊本国税不服審判所長を被告として、本件裁決の取消し及び納付した所得税一二一九万円の返還を求める訴訟(鹿児島地方裁判所平成二年(行ウ)第六号。以下「平成二年訴訟」という。)を提起した(甲一の一〇枚目)が、同裁判所は、平成三年一月一八日、本件裁決の取消訴訟は出訴期間を徒過していることを理由に、所得税の返還請求訴訟は被告を誤っていることを理由に、いずれも却下する判決をし(乙第一号証)、右判決は、同年二月二日確定した。

(二) 原告は、平成九年六月二七日、法務大臣に対し、納付した所得税の返還を求める訴訟(鹿児島地方裁判所平成九年(ワ)第五六四号)を提起したが、同裁判所は、同年八月七日、被告を誤っていることを理由に右訴えを却下する判決をした。

三  事案の概要

1  原告の請求の理由の要旨

原告は、

(一) (理由1)譲渡所得の対象となる資産の「譲渡」というためには、原告において資産を譲渡する意思がなければならないと解すべきところ、本件土地については、原告に譲渡の意思はなく、競売により売却されたものであるから、「譲渡」とは言えず、したがって譲渡所得は発生しない。

(二) (理由2)本件土地については土地区画整理法九八条に基づき昭和五八年八月一日付けで仮換地変更指定通知(仮換地ブロツク番号五四、地積五六〇・〇三平方メートル。以下「本件仮換地」という。)を受けているが、本件仮換地の使用収益権については、買受人から民事執行法八三条に規定する引渡命令の申立てがなされておらず、同条に基づく引渡命令もないので、買受人への本件仮換地の引渡しは未だ行われていないことになるから、昭和六二年分の譲渡所得はない、

と主張して

(一) 被告税務署長に対し本件通知処分の取消し(請求1)

(二) 被告国に対し、納付済み所得税額一二一九万円の返還(請求2)

を求めている。

2  被告らの反論の要旨

(一)被告税務署長に対する訴えは、行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間の経過後に提起された不適法なものである。

(二) 被告国に対する請求は、次のとおり理由がない。

(1) 原告が本件申告において本件土地の競売について譲渡所得が生じたものとして記載したことは誤りとはいえないから、原告は被告国に対し本件申告に基づき納付した所得税額を返還する請求権を有さない、

(2) また、仮に本件所得税額の返還請求権が存していたとしても、原告は申告に基づく納付をした日から五年間請求権を行使していなかったから、時効により消滅した(国税通則法七四条一項)。

第二当裁判所の判断

一  被告税務署長に対する訴えについて

1  被告税務署長に対する訴えは、本件通知処分の取消しを求める訴えであるから、行政処分の取消しの訴え(「取消訴訟」。行政事件訴訟法三条二項)に該当する。行政処分の取消訴訟は、審査請求があったときは、審査請求に対する裁決があったことを知った日から起算して三か月以内(不変期間)に提起しなければならず(同法一四条一項、二項、四項)、かつ、正当な理由のない限り、裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない(同条三項)。

2  これを本件の被告税務署長に対する訴えについてみると、前記第一の二の3の(二)のとおり、審査請求に対する本件裁決は平成元年一〇月三〇日付けで行われ、右裁決書は同年一一月一六日に原告に送達されている。

ところが、原告が本件訴えを提起したのは、平成一〇年一一月一八日であり、本件裁決の日からも、本件裁決があったことを知った日からも、既に九年を優に経過している。

したがって、被告税務署長に対する訴えは、行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間の経過後に提起された不適法なものである。

二  被告国に対する請求について

1  原告の被告国に対する請求は、本件土地が昭和六二年六月五日に競売により売却された売却益について、本件申告において分離長期譲渡所得に計上したのは誤りであるから、右譲渡所得につき納付した所得税額を返還せよというものである。

2  そもそも、確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法の定めた方法(国税通則法一九条に基づく修正申告、同法二三条に基づく更正の請求)以外にその是正を許さないならぱ、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されないと解される(最高裁判所昭和三九年一〇月二二日第一小法廷判決・民集一八巻八号一七六二頁)。

したがって、被告国に対する本件請求においては、本件申告が誤りであることの理由として原告が指摘している事実について、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、その是正を許さなければ、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合であるかどうかが問題となる。

3  そこで、本件申告が誤りであることの理由として原告の主張する点(第一の三の1参照)をそれぞれ検討する。

(一) 理由1について

譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいい(所得税法三三条一項)、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりにより、その資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者から他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである(最高裁判所昭和四七年一二月二六日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号二〇八三頁)。したがって、ここにいう資産の「譲渡」とは、所有権その他の権利を移転させる一切の行為をいい、通常の売買のほか、交換、競売、公売、収用、贈与、相続も含まれると解するのが相当である。したがって、競売による売却は「譲渡」に含まれないという原告の主張は採用できない。

(二) 理由2について

まず、民事執行法に基づく引渡命令は、占有者が買受人に対し不動産を任意に引き渡さない場合に発令されるものであって、本件仮換地について引渡命令がないからといって本件仮換地の引渡しがなされていないとは言えない。

加えて、原告提出の証拠(甲一の三六枚目)によれば、本件裁決において、国税不服審判所長は、原告(請求人)の答述、本件通知処分関係資料及び関係人の調査に基づき、原告が本件土地については競売による売却で買受人に引渡し完了していることを自認していること、本件仮換地上に買受人所有の建物が昭和六二年中に建築され、既に貸家住宅としての使用収益が買受人においてなされていることの各事実を認定している。本件において原告が本件裁決の認定した右各事実について特に争っていないことも併せて考慮すると本件土地及び本件仮換地はいずれも昭和六二年中に買受人に対して引渡し済みであると認められる

したがって、理由2についても原告の主張は採用できない。

4  以上の検討のとおり、本件申告において、原告が本件土地の競売によって譲渡所得が生じたものとして記載したことは何ら誤りとはいえない(なお、本件土地の競売による売却益が所得税法九条一項九号の非課税所得に該当することを認めるに足りる証拠はない。)のであるから、本件申告における記載事項につき明白かつ重大な錯誤があったとはいえず、ましてや、本件申告の記載内容を是正しないと納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情はない。そうすると、原告は法定の方法によらないで、本件申告の記載内容の錯誤を主張することは許されないものといわなければならない。

加えて、原告の本件申告についてみると、第一の二の2のとおり、原告の更正の請求に対し、被告税務署長から更正をすべき理由がない旨の本件通知処分がなされ、同3のとおり、本件通知処分に対する不服申立てはいずれも棄却され、同4のとおり、本件裁決の取消しを求める平成二年訴訟は出訴期間を徒過していることを理由に不適法として却下されている。そして、被告税務署長に対する本件通知処分取消しの訴えについても、右同様の理由で不適法というべきであるから、もはや本件申告については国税通則法等の法定の方法によっては是正することができず、本件申告の効力は有効に存続している。

したがって、本件申告に従った原告の所得税の納付には法津上の原因があることになるから、原告は、被告国に対し、不当利得を原因としたその返還請求をすることはできない。

よって、その余の点について判断するまでもなく、本件申告に基づき納付した所得税額を返還することを求める被告国に対する請求は認められない。

三  まとめ

よって、原告の被告税務署長に対する訴えは不適法であるからこれを却下することとし、被告国に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条に基づき、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 榎下義康 裁判官 山本由利子 裁判官 冨田敦史)

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